ボートレース界の締めくくり、“決定戦”の見どころを、『旅ゆけば博打メシ』でおなじみの『BOATBoy』黒須田守編集長に聞く後編です。今回は今年から大晦日決戦になった女子選手の最高峰、「クイーンズクライマックス(賞金女王決定戦)」をお送りします。
いい話が聞けたか、笑顔で取材中の黒須田守編集長。
後光が差しております
――23日に優勝戦が行なわれた平和島・グランプリ(賞金王決定戦)は黒須田さんも注目選手に挙げていた茅原悠紀(岡山)が制して賞金1億円を手にいたしました。見応えのあるレースでしたね。
黒須田●そうですね。茅原の「対処できないターン」という話をご紹介いたしましたが、その通りの見事な差しハンドルでした。茅原を応援していた方はもちろん、優勝戦ではどの選手から入ってもそれなりに悔いのないレースをしてくれたのではないでしょうか。
――私は3号艇の太田和美(奈良)、もしくは4号艇の菊池孝平(岩手)、いずれかが勝てば……というような買い方をしましたが、両者素晴らしいレースだったのでまったく悔いはありません。
黒須田●とにかく見応えのあるレースでしたね。平和島のHPで優勝戦の模様は見られますので、ぜひみなさんご覧ください。
――さて、グランプリの後はボートレース住之江で行なわれる「クイーンズクライマックス(賞金女王決定戦)」です。明日の26日より初日を迎えます。
黒須田●クイーンズクライマックスは28日からトライアル(予選)が始まりますが、今日25日は同時に行なわれるクイーンズクライマックスシリーズ戦の前検日ということで、平和島より慌ただしく住之江にやって参りました。最終日までほぼリアルタイム更新の『BOAT RACE ビッグレース現場レポート』にてお楽しみくださいませ。
――グランプリはその実施要項が今年から大幅に変更されましたが、クイーンズクライマックスにも変更点はあるのでしょうか。
黒須田●いえ、11月の(レディース)チャレンジカップ最終日までの賞金上位12選手が28日からのトライアルを3走して、その上位6選手が優勝戦に進出するというシステムに変更はありません。ただ、今年から優勝戦が大晦日、12月31日に実施されることになりました。文字通りのボートレース界国内最終決戦となりますね。
――選手にしても舟券を買うファンにしても、“終わりよければすべて良し”としたいところですね。
黒須田●そうですね。
第3回クイーンズクライマックス(賞金女王決定戦)12月28日(日)トライアル初日11R
1,水口由起2.岸恵子 3.日高逸子 4.寺田千恵5.海野ゆかり 6.小野生奈
第3回クイーンズクライマックス(賞金女王決定戦)12月28日(日)トライアル初日12R
1,平山智加 2.平高奈菜 3.鎌倉涼 4.三浦永理 5.永井聖美 6.守屋美穂
※賞金獲得順位10位の田口節子(岡山)は家事都合により出場辞退
※出走表は主催者発表の物とご照合ください
――それでは黒須田さんが注目する選手をうかがいましょう。
黒須田●はい。今年は常連であるはずの山川美由紀(香川)などが出場ならず、そこに新戦力が加わって来ています。昨年からの連続出場が7人というのは少ないのかなと思ったのですが、これは女子選手の実力が拮抗してきている状況と捉えることができます。ただその中で、今年も1位で選出された平山智加(香川)が一枚抜きんでいていると思います。
――昨年は男子選手との混合戦のGIで優勝するなど活躍がありましたが、今年はあまり目立たずに気が付いたら賞金1位という感じでしたが……。
黒須田●そうですね。今年は最初から賞金上位にいたわけではありません。それというのも平山は8月に行なわれたボートレースメモリアル(モーターボート記念)まですべてのSGレースに出走し、混合戦のGIへの出走も増えていました。そういった男子の強豪選手との組み合わせだと苦戦はしていましたが、レベルの高いところで走ってきたおかげでさらに力を付けることになったわけです。
――黒須田さんは以前から「女子の強豪選手はドンドンGIにも斡旋することでさらに力が付く」とおっしゃってましたね。
黒須田●ええ。まあ平山本人は大変だったと思いますし、おかげで今年前半は「ひょっとしたら選外かも……」と感じることもありました。それが8月で、レディースチャンピオン(女子王座決定戦)での優勝戦3着、ボートレースメモリアルで自身初のSG準優勝戦進出などで賞金を積み増しまて圏内に入ってきてから、結局のところは1位まで上り詰めた。
――新聞紙上などで賞金順位を見ていると、9月からみるみる順位が上がっていっていました。失礼ながら「あれ、今月は平山、なにか大きいところ勝ったっけ?」なんて思っていたぐらいです。
賞金獲得順位1位の平山智加。
「女子戦では抜けた存在でしょう。優出は堅いのでは」
黒須田●そのまま今年は低空飛行で終わっていてもおかしくなかったのが、いざ終わってみたら1位だったというのはものすごい価値があることなんですよね。最終的に2位の水口由起(京都)とは約100万円の差でしたが、もしSGやGIではなく女子戦ばかりを走っていたら、その差はもっと開いていたかもしれません。そうなると女子選手の中では平山が明らかに格上であって、もちろん日高逸子(福岡)や寺田千恵(岡山)など実績上位の選手はいるものの、いまは平山が完全に抜けたということだと思います。去年も男子選手とのGIを勝ったりとわかっていたことではありましたが、そういう殊勲はなくとも今年はさらにその意を強くしました。女子戦への出走が増えた9月以降、瞬く間に順位を上げたというのは、女子戦では明らかに上位ということですからね。
――それでは昨年に続いての連覇がありそうですね。
黒須田●まあ、短期決戦で2、3走目は枠番も抽選ですし、なによりボートレースはモーターも抽選ですからね。何が起こるかはわからないのは事実ですが、それでも優勝戦進出は外さない気はします。いまはそれくらいは力が抜けていると思いますよ。
――最後はそんな平山に交わされてしまいましたが、レディースチャンピオンを勝ったベテランの水口は2位で今回が初出場。レディースチャンピオンでは失礼ながら伏兵の優勝と感じておりました。
黒須田●GI制覇など目立った活躍は今回が初めてですね。そのときもいまももちろん強いのはわかっている選手ですし、いいモーターと枠順を引くようでしたら充分に勝てる選手ですよ。ただこの時期に来て気になるのは賞金3位の岸恵子(徳島)ですね。
――11月末日のレディースチャレンジカップで優勝したほか、近況絶好調ですね。
黒須田●勢い……というのは若手に使う言葉なのかもしれませんが、現実的な勢いは岸にありますね。もともと道中の捌きが上手い選手というイメージでしたが、最近はマクリ選手ですからね。強いです。年齢を強調したら42歳にして旬がきた感じですね。
近況絶好調の岸恵子。
貴婦人的な佇まいから繰り出されるマクリのハンドルが冴える
――“ベテランが頑張り続ける女子戦線”というイメージが常にありましたが、今回、日高、寺田……といったおなじみのベテランではなく、水口、岸という新生的なベテランが活躍したのが少し意外でした。
黒須田●そうですね。世代交代……とは少し違いますしね(笑)。まあ世代が近い選手たちですし、頑張ってもらいたいのは間違いないですね。
気になる女子選手がいっぱい、大晦日に笑うのは誰だ
――選出上位3選手の名前が出ましたが、それ以下でも黒須田さんが特に注目したい選手はいかがでしょう。
黒須田●そうですね……すぐ下になりますが賞金4位と5位の平高奈菜(愛媛)と鎌倉涼(大阪)の100期コンビですか。彼女たち、といいますか平高という選手は常に“事故点との戦い”なんです。
――事故点というのは選手責任の転覆やスタート事故でのペナルティ点で、累積するとクラス降下や特定のレースに出場できないなどの罰則が待っています。
黒須田●平高は新人賞も取っているくらいの実力がある選手なのですが、11年にボートレース三国での開催以後、事故点の累積などで今年までレディースチャンピオンに出場できませんでした。一昨年のクイーンズクライマックスも選出12名より下の選手で行なわれているシリーズ戦に出場していましたが、12名に入れなかったのもフライング休みなどで賞金が積み増せないのが大きかったはずです。昨年は昨年でフライング休みに引っかかってしまってシリーズ戦にも出られなかったですし。
――フライングで出走停止になっていれば当然レースには出られないわけですからね。
黒須田●それで昨年の11月のことですが、平高・鎌倉とトークショーがあったんですね。そこで「来年こそは揃ってクイーンズクライマックスに!と二人で約束した」という話になりまして、両者の実力ならば充分可能な話なのですが、なによりも問題は平高の事故点と、フライングで規定の出走回数に達しないことなんですよね(笑)。それで今年に入ってみたら……。
――入ってみましたら……。
黒須田●今年はフライングもなく11カ月間、走りきりました。そうしたら4位に入れる実力は当然あるんですよね。鎌倉は昨年に続いての出場となりますが、この100期コンビの走りに注目してください。
――ベテランの2位3位に続いては、若手の4位5位となりました。
“安全運転”でついに大舞台に登場の平高奈菜。
同期・鎌倉涼と大暴れの予感
黒須田●それと9位の永井聖美(東京)についてもひとこと。彼女は2年前の第1回クイーンズクライマックスで無念の選出次点となりシリーズ戦への出場となったのですが、その年のトライアル初戦で向井美鈴(山口)がケガをして帰郷となり、繰り上がりで決定戦に出ることになったんです。
――これ、決して“昇格”とは言えないのですよね。
黒須田●そうなんです。規定により全レース6号艇になり、結局レースでも見せ場なく終わるのですが、永井はシリーズ戦では予選3連勝で優勝候補になっていたんですよ。ひょっとしたらシリーズ戦で優勝したほうがおいしかったかもわからないところ、妙な形で終了してしまった。そして昨年も惜しいところで上位12名に入れなかったのが、今年はついに突破してきたわけですからね。2年前とは180度違った最終決戦にしてほしいものです。……あ、やっぱりあともうひとりいいかな?
――どうぞどうぞ。
黒須田●選出順位11位の小野生奈(福岡)なんですが、彼女は去年の今ごろはまだB1級だったんですよ。それでも出場したシリーズ戦では優勝戦に進出(5着)して少し名を売ったのですが、年明けにA1級に昇格したら、GIであるレディースチャンピオンより先にSGのボートレースオールスター(笹川賞)に出場してしまったんですね。そこで1着こそ取れませんでしたが、夏のレディースチャンピオンでは初出場で優出(4着)。それで気が付いたら今年は最後の12名入り……この急上昇ぶりは岸とは違う意味ですごいですよね。自分からマクってレースを作っていくタイプなので、レースを見ていてもおもしろいですよ。ぜひ小野も注目してみてください。
――ありがとうございました……って、女子は注目したい選手ばかりなのですよね。
黒須田●そうなんですよ。もう名前も挙がっているけれどもさすがの日高、寺田の実力にも注目ですし、第1回の覇者である三浦永理(静岡)、永遠のビジュアル系・海野ゆかり(広島)、次点の高橋淳美(大阪)と賞金差3万円弱で競り勝った守屋美穂(岡山)……と、出場12選手の名前を出してしまいましたが(笑)、全員に見どころがあります。惜しくも12名には達さなかった選手たちでのシリーズ戦を含めて、住之江での最終決戦を楽しんでください。
――暮れの住之江はとにかく寒いのを覚えています。どうか身体に気を付けて取材に、舟券に頑張ってください。
黒須田●ありがとうございます。ファンのみなさんも暖かくして、懐も温めにお出でください(笑)。