ヨーロッパクライミングツアー2016夏-10Shamonixシャモニークライミング-IV-

ミディ南壁レビュファールート・マルチピッチ-3
&シャモニー最後の夜!

南峰のピーク(3800m)に抜けると、眼下に展望台のテラスがあって、観光客がこちらを指差して口々に何か言っているが目に入る。大勢の視線を浴びながら終了点からテラスの少し下まで懸垂下降しテラスへ上がって装備を解く。
ここではクライマーは観光客の称賛の的だ。恥ずかしいような、誇らしいような…

エギュ・ド・ミディ山頂駅3777mからロープウェイで中間駅2317mまで降り、カフェで昼食を摂る。

datin161101_001.jpgブッハーッ!
ビール!いやー、甘露甘露!
腹ヘラリだからホットドッグがやたらにご馳走!!

datin161101_002.jpgこのミディ針峰群を縦走する強者もいるんだとか。並大抵じゃないね。

日付けが代わって…
8月14日
プランではコスミック山稜を行くことになっていたが、昨日の時点で「無理です〜」を表明していた。何にもしないのもなんだからと、ガイヤンの岩場へ出かけた。
9日に来た時にトップロープしたところをリードしてみたり、ちょっと限界グレード以上を触ってみたり、まあ、ゆったりまったりクライミングを楽しんでいたら、すぐお昼になった。
岩場の木陰で行動食をとり、前の壁に登っているクライマーを眺めながらおしゃべりしていた、その時だった。
「あッ!」
小さな叫び声とともに人が降ってきた。前の壁の基部にあるこぶ岩に当たって、それはもう脇腹辺りを中心に岩にぶつかり、ぶつかった瞬間、悲痛な叫び声とともに身体はしなっていた。そして転がり、もう一段下のこぶ岩に、多分頭をぶつけ、また転がって地面に落ちた。それはスローモーションのように目に映ったが、咄嗟に意味が理解できなかった。
周りの人がざわざわと忙しなく動き、すぐ隣のルートでキッズスクールを指導していたインストラクターが電話連絡している。
ビレイヤーの問いかけに、何やら返答しているところをみると、意識はあるのだろう。かといって安易に動かせないから周りは声掛けしたりして見守るより術がない。篠原ガイドと私も、立ち去るに立ち去れず、沈黙して事の経緯を見守っていた。

ほどなく救急隊が到着して、素早く観察判断して点滴など適切な処置を施し、しかるべき病院施設への搬送準備を始める。その段になって篠原ガイドがヘルプに入る。怪我人に負荷をかけず担架に乗せるには多くの人手を要するのだ。

事の経緯はどうやら次のようだったらしい。
いわゆるすっぽ抜け!
彼らが登っていたルートはロングルートだった。確か岩場へ着いたとき他のパーティが登っていた。一人が登っていって上に到着してしばらくしてから、下にいたビレヤーが登って行った。最後には二人順に懸垂して降りてきた。そんなことだった。終了点のテラスで、そこそこ長いこと高度を楽しんでいる様が印象に残っている。
しかるに後のパーティーは、一人が登っていって、終了点から懸垂下降しようとしてロープが足りなくなって抜けてしまったのだ。
片道50m近くあったのだろうが、80mの長いのを使っているから大丈夫だろうと踏んだのだ。行って帰って100m近くあったので20m近く落ちてしまったのだ。

ことに長いルートのような場合には、登る前の下調べが重要だと改めて思い知らされた。トポが出ていれば入手する。トポにはルートがどのくらいの長さで、ボルトが何本打たれているか必ず表記がある。もちろんビレーヤーがロープの末端処理をしていれば抜けることはなかったし、ロープの真ん中過ぎた時点で、クライマーが到達した位置を確認していれば、ロープが足りなくなることは察知できたはずだった。というような事柄はリードクライマーとしては基本中の基本なのだが。

「得てして基本中の基本の、ちょっとした見過ごしやら見落としやらで事故が起こるんですよ」
「あのルート、結構難しそうだったから登れる人だったでしょうにね」

もうそれ以上クライミングを続ける気もなれず、早々に引き上げた。

夕方予約しておいたレストランに夕食に出かけた。シャモニーにはピザとかパスタとかのレストンがほとんど名中にあって、ちゃんとなフレンチを出す店だとは聞いていた。泊まっているホテル・リッシュモンのとなりにあるレストラン「Quatre Saison(四季)」だ。

datin161101_003.jpgなんかもう一品出た気もするが忘れた。いい雰囲気の店ではあり、料理も悪くはないが、感動するほどではない。ま、他にフレンチの店がないしリーズナブルだったから、趣向を変えたい時にはいいんじゃないかな!

5トレでバスクから来ていた父子クライマーの窮地を救い、ドライチンネで負傷クライマー&ガイドをサポートし、ガイヤンで怪我したクライマーをヘルプした篠原ガイド。
「どういうわけだったんでしょうね〜?」
「重なる時は重なるんですね」
「クライマー回復できるといいですね」
「きっと大丈夫ですよ」

シャモニー最後の夜だった。

ー了ー