こぐれ邸は摩訶不思議
都内の高級住宅街の路地を曲がると、うっそうと茂った植木に囲まれてコンテナを重ねたように見える家がこぐれ邸だ。さらに玄関のある 3 階までは工事現場のような鉄製網の階段を上がる。ここで、高級ハイヒールなどを履いて訪れた客はアウトである。こぐれ家を訪れるときはスニーカーを着用するのが正しい訪れ方のようだ。
このユニークな家を設計したのは、室伏次郎氏。すでにこぐれ邸はあちこちで紹介されているので、 TV や雑誌で目にしたかもしれない。
「いらっしゃーい!」
にこやかに迎え出てくれたこぐれさんはTシャツ&パンツに白いエプロン。もうそれだけで、気取らない人柄と見てとれる。
「どうぞ中へ」
って、クツはぬがないで上がるんですぞ、こぐれさんちは!
ちょっと秘密めいた、小洒落たレストランのような入り口は続きでリビングにつながっている。木製のテーブル、しばり上げられたカーテン、こぐれさんの仕事スペースに置かれたこまごました文具や道具の類、天井から下げられた飾り…。カメラのファインダー越しにのぞいたリビングは、隅から隅までどう切り取っても「絵」になる。さすが「絵」をする人の暮らしぶりかとただただ感心。
それだけで驚いていてはダメ。
リビングと隣り合わせにあるバスルーム。これはファンタスティック!
察するに、ブリキのおもちゃのようなバスタブ、ペーストやブラシやシャンプーの容れもの、かけられた鏡などなど、ひとつひとつはちゃんと「気に入って」手に入れたものだったろう。もしかしたらどこかの国でないと探せなかったりしたのではいか?
テラス側が全面ガラス張りのバスルームというだけで「ヒャー、ビックリ」。
にもまして、その奥にちょこっと見えているトイレタリーは、キャンバス布のついたてで囲ってあるだけで、いわば「丸見え」状態。
そしてバスルームをはさんでリビングと寝室が一直線上という配置だって、そりゃあビックリでしょ。
テラスに出てみてさらに仰天!
つまり、3階はそれ自体、大きなテラスで、リビング、バスルーム、寝室などの住スペースとキッチン・ダイニングスペースの二つのコンテナがテラスの上にのっかってる、そんな「つくり」になっているのだ。
たとえば、こぐれさんがキッチンでことこと煮物をしかけながらリビングで仕事をしてたとしよう。「あ、そろそろ、いいかな」とか思ったとする。その時、もしもザーッと雨が降ってきたとすると、こぐれさんは煮物の火を止めにいくのに傘を差さないといけない。
なんて常識はずれな!
けれど、普通、居宅設計で言われる「動線」がどうとか、「仕事効率」がどうのなんぞという「常識」をまったく度外視した「つくり」は、キッチンに続くダイニングに隠れ宿・レストランのような雰囲気を与えている。「食」の空間が独自で存在しているのだ。
ここまでくれば、びっくりが感動に変わる。これほどまでに既存の価値基準にこだわらない、裏を返せばこだわりにこだわった「家」があるなんて!!
しかも、その「こだわり」は「くつろぎ」感をそこねたりはしていない。かもし出されたそこはかとないゆったり感はこぐれさんの人柄によるところも大きいには違いないのだろう。
キッチン・ダイニングの外壁にかけられた脚立に恐る恐る登って菜園を眺めていたら
「こっち側へ落ちても脚ぐらい折れるかもしれないけど、あっち側へ落ちたら間違いなく命はないよ」
脚立は3、4メートルだが、反対側は3階プラス高台の高さで都合数10メートルの眺望最高の「高地?」育ちの野菜たち、まあツヤツヤしていること。インゲン、トマト、キュウリにカボチャ。ゴウヤなんてのも。
1階、2階はカメラマンのご主人TORU君の写真スタジオだが、降りていくのが…。
外階段でも網の隙間から下が見えて、なんとなく怖かったんだが、家の中にも、さらに目が回るような鉄製網のラセン階段。せっかくの壁面ギャラリーも足元に気をとられて、じっくり眺めるゆとりがないほど。
汗かきベソかき、ビビリまくりでたどり着いた甲斐はあった。
片側は1、2階通しのガラス張りで自然光、さんさん。体育館のような2階部の回り通路からなら斜観、俯瞰あらゆる角度から撮影可能。それにこれだけ広ければ、ダンスライブでもなんでも撮れる。マーベラス&グレイト「ワォ」なスタジオ。2階部にあるTORU君の仕事スペースもそれだけでアート!
こぐれさんちに着いた時、ちょうど宅配ピザ屋さんのようなバイクで出かけるところだったTORU君に、今度はスタジオの説明を聞きたいな。きっとあの辺にあったのは「音」系かな、保管庫に並べてあった作品群の話とかも。
こぐれさん!
またお邪魔させてくださいね〜!!
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【プロフィール】
イラストレーター、エッセイスト
「今日の料理」「おしゃれ工房」などTV番組に出演。
毎日食べたものを写真つきでつづる 「ごはん日記」は働く女性のためのwebメディア「Cafeglobe.com」で好評連載中。
「こぐれの家にようこそ」「パリを覗こう 路線Busで巡る旅」「ふたりでイタリア」「こぐれひでこのベトナム332048歩」など著書多数