表題の「ガンコロリン」他5篇の短編作品からなる一冊。いずれも2010年から2013年にかけて「小説新潮」や「小説現代」に掲載されたものをまとめたものだ。
切れ味のよい短編なればこそ、却って著者の「医」に対する基本姿勢や死生観、ひいては人生観や自然観に至る精神性が雑味を抜いた姿でくっきりと浮かび上がる。もとい、その奥深い真実を抽出せんがために敢えて短編のスタイルをとり、様々な前提条件を脇へ押しやったところで、あり得ると言えばあり得るが、しかし、すんでであり得ない仮想設定を広げて見せる。アイロニーとシニック、斜に構えて白目剥いて、笑えないほどに、ここまで笑かそうとする。
まあまあ、いいではないか、屁理屈こねず、口答えせず、馬鹿馬鹿しい展開に流されてみようではないか! 身を捨てて浮かぶ瀬もあると言う如く、怒涛のような「奇想」の中に、読むほどに浮き彫りに浮かび上がってくる毛色の違う一筋に目が引きつけられる。その色合いの違いの真実は思いの外ズシッと腑に落ちる。時として消化不良に悩むほどに。
件の馴染の登場人物の見慣れた後ろ姿がチラリ見えたりして「あ、知ってる、知ってる」など反応できる優越感も心地よい。
「ん? これ誰だっけ!?」に突き当ったら、後発の「カレイドスコープの箱庭」の巻末の「海堂作品一覧及び相関網羅総字引?」を引いてみるのも一興。「もしかして、これって次回作? 次々回作の予告か?」と閃いたりしたら、それこそ海堂作品の「おっかけ」にとっては本望本懐ではあろう。
なにはともあれ、海堂本筋「街道?」をゆく果てしもない旅路の、結構な茶店、あるいは宿場には違いない。ゆるりと休まれるがよかろう。
作者名:海堂 尊
ジャンル:医療小説
出版:新潮社