ミディ南壁レビュファールート・マルチピッチ-1
8月13日
ミディ南壁レビュファールート・マルチピッチ。
10日の雨は山に雪をもたらし、街から見上げるグーテの壁や周辺の山々の山肌を白く輝かせていた。11日にはブレバン・フリソンロッシュを登攀した。12日はレスト。「13日ならベストコンディションを期してミディを登れる」と篠原ガイドの読みのとおりになった。朝から快晴!
ミディの南壁にはマルチのルートが複数あるが「レビュファールート」が最もポピュラーでかつ名ルートと言われている。初登者はかのガストン・レビュファー、なんと遡ること60年前というから驚きだ。
*ガストン・レビュファー:
1921年マルセイユ・フランス生まれ。
クライマーとしての非凡な才能に恵まれ、21才にしてアルプス登山の公認ガイドとなる。モンブラン登頂は実に1000回以上!ヨーロッパ6大北壁全てに登頂。ヨーロッパアルプスの名山岳ガイドであり伝説的な登山家。
また64年の生涯で『氷・雪・岩』、『星にのばされたザイル』、『星と嵐――6つの北壁登行』に代表される17の著書を著わし、繊細で美しい文体から「山の詩人」「山のサン・テクデュペリ」と謳われた。彼の手になる山岳映画も、登山愛好家のみならず各国人々の圧倒的な称賛を以て迎えられ、没後30年余の今も如何ばかりも褪色することなく、著書とともに感動を与え続けている。
まずはロープウェイに乗ってプラン・ドゥ・レギーユに上がる。ミディ展望台のテラスからバレ・ブランシュに向かって下降開始。
急斜面を降りながら感慨無量!
そうか、もう5年も経ったのか…と独りごちする。思い返せば2011年の8月にもここを降りている。モンブラン登山を控え、高度順応トレーニングでバレ・ブランシュを歩いたのだ。
前を行く登山者がへっぴり腰で恐る恐る足を出している。稜線の左側は切れ落ちていて、落ちたらひとたまりもないのだ。怖くて腰が引けると滑りそうになってなおさら怖い。
そうだったよな〜わかる、わかる…
「次のちょい広いところで抜いてください」
言われて、歩を早める。
「5年前より怖くないです」
「なんだかんだで進歩してんですよ」
ちょっと嬉しい。
広い雪原を踏みしめながら歩いていると一歩ずつ、一歩ずつがなんだか、とてつもなく嬉しい。陽光を照り返す白雪のまぶしさが胸に溢れそうになる。自分にとって辛い苦しいの連続ばかりの山なのに、なぜそうもして山に行き続けるのか、その訳が微かに見えた気がしてくる。理屈ではない得体の知れない衝動。
それもまあ、間もなくの後にまたもや辛いと苦しいを突き付けられた瞬間に幻の納得は雲散霧消して訳が分からなくなってしまうのだが…
見上げれば赤い岩肌の花崗岩のスラブ壁が長々と続く。まあまあ順調に登れる。