移民と異文化、歴史とモダンが反りあうことなく、個々を十分に保つ街、サンフランシスコ。けれども、この街に存在するあらゆる混在は、「猥雑」ではなく「融合」という言葉のほうがしっくりとくるから不思議である。そんなリベラルな空気を持つこの街に心地よさとインスピレーションをもらうアーティストは決して少なくない。サンフランシスコ市内在住のAdele Louise Shawさんもその一人。
Adeleは、現在ローカルでフルタイムのニット帽子・絵画のアーティストとして活躍し、週3回パートタイムの講師としての顔も持つ。彼女の作品は見るものに強烈な印象を残すものではないが、淡い色合いのタッチが女性らしいやわらかさを感じさせる。そして、被写体のほとんどが、バスルーム、洗面台といった生活の1シーンであり、室内の光景であるのが特徴的である。
「ここは、私だけが見たことのある場所ではなくて、生活しているものみんなに共通している場所。そしてここはいやなことも洗い流せる憩いの場所。そんな気持ちを見るものと共有したい」とAdeleは言う。なるほど。絵画とは、アウストラロピテクスの時代からあったであろうもっとも原始的なコミュニケーションのツール。それを通じてメッセージを伝達するには、万人に共通する「日々の生活」というものが、書くものの「思い」と見るものの「感情」を最も近づける「共通の言語」となるのかもしれない。
Adele は4人兄弟の末っ子で、父親はライオネル鉄道模型(lionel electrical train)を売るおもちゃ会社を経営していた。年上の兄弟との接触、それに小さいときから父の手伝いをしていたためか、同じ年頃の子供よりかはいつも mature(考えが大人びた、分別のある)だったという。「でも、今この年になったら、それが逆転してしまった。今、私は同年代のオトナよりも随分子供になった。でも、オトナが子供ゴコロを持つことは、私はとっても大切なことだと思ってるの。『子供ゴコロ』を持つということと『子供』でいるということは、違うことだし。私は子供ゴコロを持っているけど、教養もあるし、社会に対してもとても責任を持っているわよ」と説明してくれた。
彼女の作品に温かみを感じる理由は、淡い色合いのほかにもあった。バスルームの作品の背景には友人から届いたポストカードがたくさんロックインされている。それらが、ビーワックスにコーティングされているものだから、2次元なのにどこか不思議なファジーさや立体感を生み出し、絵画とオブジェの中間的な作品となっている。
「芸術は爆発だ」「絵画はイマジネーションの産物だ」とはよく聞く。一般的にイマジネーションとリアリティは対極にあり、プラスとマイナス極が反りあうように交わることのないものとしてとらえられていたりする。
Adeleが作品をとおして伝えたいメッセージは、「リアリティ」だという。リアルな喜び、リアルな幸せ、リアルな笑顔。誰でもが日常目にする見慣れたシーンでもAdeleの自由なイマジネーションで、そこに「アート」としてのリアリティーが息づき始める。日常的リアリティと芸術的スピリットは融合して一体となるのだ。
ローカルイベント 多様性があるこの街のローカルイベントに足を運んでいろんな人と出会うこと、帽子を作ること、帽子・絵画の講師として生徒と触れ合うこと、友達と会うこと、料理・ガーデニングをし材料や植物と話をすること、遊び時間に解き放つ子供心や起こるすべての出来事は、彼女の創作造動の一環であり、そのヒントが作品にアウトプットされる。そしてまた作品を通じて、ローカルの人々に還元される。
アソビストは、必ずしもシゴトと離れたところで追求する必要はない。彼女は、あそびにも、仕事にも、そして人生そのものにあそび心をフュージョンさせ、遊びとシゴトが見事ブレンドしてしまっている
アーティストとして活動を始めてから約20年。フルタイムアーティストとしてスタートを切ってからは6年目となったそう。来月には新しくスタジオもオープンし、”アーティスト”として、また”一生のアソビスト”としてもこれからもますます磨きがかかるだろう!
【プロフィール】
Adele Louise Shaw
アデール・ルイーズ・ショウ
ニュージャージー州生まれ、
現在はサンフランシスコ在住20年間、
絵画・帽子アーティストとして活動。また講師としても活躍。
ローカルで数々のアートショーを開催。
今月には新しくスタジオもオープン。