【特別連載】おそうじマン日記(その6)

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そしてまた何日か経ったお昼寝時間のことです。
いきなりごんた君がはね起きて、先生を指差して言いました。
「おーい、みんなー。おきろ、おきろーっ。この女のいうこと、きくなーっ。大うそつきだぞー。みんなー、おきろ、おきろー、おきるんだーっ」
そして、舞台へ駆け登り、
「おきろ、おきろー」
と、どなりながら飛び降りて、どんどんと跳びまわりました。
「ごんた君、先生がいつうそをつきましたか? 教えてちょうだい」
「きのうのおやつ、プリンだったじゃないか。せんせいのうそつき!」
「まあ! あれはね、ゼリーっていうのよ」
園児たちは、びっくりしながら目をこすりこすり起きて、小さい子たちは泣き出しました。
ごんた君は、びゅんびゅん走りまわりました。
「ごんた君、静かにしなさーい!」
先生が叫んでもなんのその。お昼寝どころじゃありません。先生も泣き出しそうです。
みんなも一緒に走り出し、わいわい、きゃあきゃあ。えーん、えーん。
ホールは、蜂の巣をつついたような騒ぎになりました。
ごんた君は、走って走ってホールから飛び出し、教室を三つ通り越し、やっと止まりました。

osouji_04.jpgごんた君は、掃除機をかけている私にそっと忍び足で近づき、とび蹴りしてきました。
「ダッサい! おそうじマンめっ。おまえなんか、ぶっころしてやるうーっ。これでもかっ。ダッサい! キィーック! キィーック!」
と、何度も蹴り続けました。
ごんた君は、今まで見たこともないぐらい恐ろしい顔になり、顔色はどす黒く、目は細くつり上がり、低く恐ろしい声は、三歳の子供とはとても思えない暗いものです。私は背中にぞぞっと冷たいものが走り、恐ろしくなって、立ちすくんでしまいました。
担任の先生が、駆けつけてきました。
「ごんた君、人に傷つくことを言ってはいけません。やめなさいっ。ハル先生も叱ってください。黙ってばかりいないで、なんとか言ってください」
そう言われても、なんと言ってよいのかわかりません。仕方がないので、こう話しかけました。
「ごんた君、叱られるの嫌だから、違うことお話しようよ」
すると、先生はむっとされて、
「問題をすりかえないでください。問題に向き合ってください。叱ってください」
それでも、ごんた君がかわいそうで怒ることなど出来ません。この前、「つまんないよう」とひどく悲しそうに帰った姿を思い出すからです。
またしても私が黙っていると、先生は、
「ああ、この子がこのまま、人にありがとうの気持ちを持てないで大人になったら、どんな人間になるのだろう? どうすれば、わかってくれるかしら……」
と、ほんとうに困った様子で頭を抱えていました。でも、やがて顔を上げると、
「やっぱり、ありがとうの花の苗に、できるだけたくさんの栄養を与えてあげることだわ。」
そうつぶやきながら、ごんた君を連れて行きました。(つづく)

絵・稲葉 美也子