バレンシアに引っ越してきてからびっくりしたことのひとつが「ご近所づきあい」。バレンシアってマドリードやバルセロナほどの規模ではないにしても一応(って紹介もなんですが)スペイン三大都市のひとつ。しかしながらピンポーンとチャイムがなったかと思うと、ご近所さんが次々と挨拶に。えっ? 都会ってもっと個人主義じゃ……? もちろん地域や個人によって程度は変わってくるでしょうし、挨拶にくる裏理由として、偵察がてらの様子見と好奇心もあるのでしょうが(なんと言ってもこっちはガイジンですしね)、少し仲良くなるとそこにはまさに「三丁目の夕日」の世界が広がっているのです。
ブロッコリーは生で食べられるし、
レモンも皮までしっかり使えます一例がご近所のラファエル(Rafael)さん。週末になるとバレンシア郊外にあるセカンドハウスに行き自家栽培を楽しんでいる彼は、毎週のようにオレンジ、トマト、ピーマン、レモン、柿などもぎたての野菜や果物をたくさん持って来てくれます。いちばん初めに野菜を山ほど抱えて玄関先に表れた彼をみて「えっ、売り込み?(なんせ今スペイン経済危機だし)」などと不審がってしまった筆者。だってここ一応(いやまた失礼)大都市ですよ。こんなに慣れ慣れしい(これまた失礼)ご近所づきあいがあっていいのでしょうか(笑)。
新天地でこのような歓迎を受けるだけでも嬉しいのに、いただく野菜や果物の美味なこと! もぎたてのブロッコリーは茹でる必要ナシ、洗ってバルサミコ酢を少しかけて生でいただける新鮮さ。放射能が云々という心配のなか、産地を見て買い物をしているなど愛する我が国のニュースを耳にする昨今、このような形で大地の恵みに触れると格別の思いになります。そして、この世で「守りたいもの」がはっきりしてきますよね。
こちら生アンティチョーク。
買うと1キロあたり1.5ユーロ(約150円)前後野菜や果物がたくさん採れたときには、決まって余分をサルサやジャムなどの保存食にするんですって。ザ・捨てない生活、エコライフここにありです。せっかくですから、おすそわけいただいた中でとりわけ重宝しているレシピをふたつご紹介させてください。
ひとつ目は“ピスト”。ピストとはスペイン版ラタトゥイユで、ラファエルさん流ピストは、ガーリックを入れて風味をつけておいたオリーブオイルのなかに適当な大きさに刻んだトマト、赤・緑ピーマン、玉ねぎを入れ、蓋をしてじっくり煮るというシンプルなもの。水は一切加えない、砂糖を加えてトマトの酸味を緩和する、火は弱火でじっくりと味を引き出す、この三点がミソだそう。このピスト、パスタソースとして、ディップとして、魚や肉の付けあわせに、また炒め物のアクセントソースにもなりマルチに活躍してくれます。しかも数年は持つそうで、究極の保存食ですよねえ。
続いてが“アンティチョークの前菜”。アンティチョークの底を叩いて葉を広げ、そこにオリーブオイルをたらして塩を少々。電子レンジでチンすること5分、とこれだけ。アンティチョークの葉っぱをめくる手が止まらないほど美味しい一品です。
Rafaelさん特製のトマトとピーマンのピスト、
そしてバレンシアトマトのサルサここでいただいている大地の恵みやあたたかい人間関係に思いを寄せると、幸福って、多くの場合お金で買えないものが運んでくれるとしみじみ思う筆者なのでした。