ヨーロッパに住んでいるとアルプスの山々をしょっちゅう目にする機会があります。登山家や本格的なスキーヤーでない限り登ることはありません。ところが、フランスのエギーユ・デュ・ミディ(Aiguille du Midi) は違います。高さこそアルプスの最高峰のモンブランには及びませんが、麓のシャモニーから頂上のすぐ近くの展望台まで、なんとロープウェイで登れるのです。そこからさらにエレベータで3842mの頂上まで登ることができます。
5月のある晴れた日。
スイスのジュネーブから80kmほど離れたシャモニーまで車で向かいました。約1時間の快適なドライブで、その途中からは雪に輝くアルプスの山々が見え隠れしています。シャモニー(標高1036m)は登山とスキーのリゾート地で有名ですが、5月なら雪はなく軽装でも快適。ロープウェイの切符を長蛇の列に並んで買い求めました。順番が来るまで40分ほど、カフェでコーヒーを飲みながら待つのです。この先はさすがにダウンのジャケットを着込んでからロープウェイに乗り込みます。車窓を見ながら、つい女王陛下の007」(1969年)を思い出してしまいました。スイスのベルニーズ・アルプスにあるシルトホルン(標高2970メートル)で、悪役から ボンドがスキーで、猛スピードで滑り降りてくる手に汗を握るシーンです。時を隔てても変わらず我々の目を楽しませてくれるのは壮大なアルプスの山々。
途中で一回乗り継いで、2800mの高度差をわずか20分ほどで登ってしまいます。途中から雪景色に代わり、頂上付近では一面白銀の世界に包まれます。ロープウェイ客はスキー板を担いだ人もいますが、私のように景色を楽しむ観光客も多くいます。
標高3777mの絶壁の岩の上に作られた展望台からは360°アルプスのパノラマ景色が楽しめます。フランス、イタリア、スイスのアルプスの山々が国境などないかのように広がっています。アルプスの最高峰モンブランも近くに見えます。思わずカメラのシャッターを切りまくるのですが、さすがに指先が冷たくなり、息をフーフーと吹きかけ、ホカロンの入っているポケットで暖をとりながらの撮影です。
展望台からふと下を見ると、雪に覆われた急斜面にロープだけを頼りにスキー板をかついで歩いていく人たちが見えます。こんな急斜面でスキーをして、よほど腕に自身がるのでしょう。 展望台の中にはレストランがあり、中はとても暖かく、お値段はロケーションもいいだけに少し高めです。食後に熱いコーヒーブレイクでまったりとした時間を過ごせて頭を空っぽにし、目前のパノラマだけに集中できるのは最高の贅沢です。