「最先端医療ミステリー」とは帯にあるが、いい意味で若干違和感を覚えたりする。最先端といえば、そうには違いない。現時点における医の最先端の延長線上にはあるといえないこともないが、延長距離は見かけよりは遥かに遠く、「近未来」という表現で片づけてしまうには、あまりにも冒険的だ。
「ミステリー」というのも同様。確かに驚愕するほどミステリアスだが、ミステリーというよりむしろ、切ないばかりのロマンティックストーリーと呼びたい。
担ぎ上げられる限りのリアリティーを積載し、隙間ないディティルを構築する、くだんの著者の手法をもってしたればこそ、延長距離の遥けきは意識されることなく受け容れられ、気が付けばその架空のリアリティーに浸食されつくして、陶酔域に達してしまう。
だってね、考えてもごらんなさいな。ギリシャ神話の眠りの神モルフェウスがメタファーらしいが、人工冬眠・コールドからいわば解凍された「人」が、5年の眠りから覚めてまた息を吹き返すなど、どれだけ突拍子もないか!
だが、想像力を駆使すれば「眠る続ける」孤独、それを「見守り続ける」孤独を想い、それは恐怖する。ま、その前に「閉所恐怖」な向きにとっては、まずは「眠りの棺?」に「閉じ込められる」感は想像もしたくない身震いだ。
あ、そーかー。そのぞわぞわーッと怖い感じは下手なミステリーやホラーより怖い、かもしれない。
つまり……
著者の核心はそこにあるとは必然に思い当たるというもの。ページを繰っていることすら忘れて、登場するキャストと濃密な時間を共有すれば、皮膚の表皮から染み込んでくる孤独に体温が下がってしまう気がする。腕のいい鍼灸師に鍼してもらったように、チクリは時間経過で後からじわじわと効き目を及ぼす。
人はかくまでに孤独であるが故に、どう飼い馴らそうとして抗っても、その静寂に抑え込まれてしまう。
ならば、命永らえるためには何が要りようか?
たった独りの眠りを、孤独を「棺」に閉じ込めて浸す「メディウム」溶液は、何ひとつ不純物を含まないまったきピュアで崇高な人間沙汰を越えたアガペー・神の愛に他ない。
海堂ワールドきっての、いや著者なればこそのラブロマンス。
切なくて、いとしくて、胸をかきむしりながら最後の一行を読み終える。
いやまあね、著者は本作を「南アフリカ取材」中に一気呵成に書き終えたというから、多分、あんまり暑くて頭が飛んでたんだわ。
ぜったい!!!
作者名:海堂 尊
ジャンル:ミステリ
出版:角川書店